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2009.11.17 *Tue

「フジツボ―魅惑の足まねき」 倉谷 うらら

まず、フジツボは貝じゃないって、知ってましたか?
なんとフジツボは甲殻類、エビやカニと同じ仲間で、あの石灰質の殻の
中で脱皮を繰り返し成長するそうです。
その容姿から分類学上も貝類と見なされ続け、1754年にある牧師が
フジツボは甲殻類だと気づき報告するも無視され、1830年になって
やっと認められたそうです。

フジツボは付着生物で、何にでも付くフジツボもいますが、素材を限定
して付くフジツボがいます。
たとえば鯨限定で付くフジツボは6種。その中でオニフジツボは一頭の
鯨についているものを全てあわせると数トンになることすらあるそうです。
しかも鯨は、自分の体のどこにフジツボが付いているか把握して
いて、雄同士の戦いの際に、わざとフジツボが沢山ついている部分
で相手に体当りすることがある
んですって !

作者である倉谷さんは、フジツボは不当に毛嫌いされていると憤慨され
ています。その理由はあの都市伝説にあるといいます。
この都市伝説、みなさんもご存じですよね?
「岩場でひざをすりむいたら・・・」というアレです。

日本人フジツボ研究者の9割近くがこの都市伝説を耳にしたり、本当に
ありえるのかとの質問を受けたりしているそうですが、
フジツボはヒトの体内ではいきていけません。
倉谷さんは、外国人と知り合うたびに、この都市伝説を知っているか
質問するのですが、いまだかつて出会ったことがなく、日本限定だそうです。

それから、ダーウィンがフジツボを8年も研究し、計4巻の「フジツボ総説」を
書き上げているなんてbikkuri01
ダーウィンの家には世界中からフジツボが届き、結果的に合計1万もの
フジツボを調べたそうです。ダーウィン家の子供たちは、フジツボ解剖用
にカスタマイズした顕微鏡の前で、作業に没頭する父を見て育ちました。
次男が友達に、きみのお父さんはどの部屋でフジツボするの?
聞いてしまったエピソードが残っているそうです。

作者のフジツボを語ることへの昂揚した気持ちが伝わってきて、
読者である私もワクワクして、読んでいてたいへん楽しい1冊でした。

フジツボ―魅惑の足まねき (岩波科学ライブラリー)フジツボ―魅惑の足まねき (岩波科学ライブラリー)
(2009/06)
倉谷 うらら

商品詳細を見る



▼以下、抜粋・要約。(自分のためのメモになります。興味のある方は、どうぞ)

 ・脱いだ殻は蓋板(がいばん)の間から海水中に捨てられる。
  脱皮殻はごく薄い半透明の殻のようなもの。岩場の潮だまりで
  目をこらせば、水面  を漂う天女の羽衣を見つけることができるかも。

 ・植物の蔓のような形をした脚を持つことから、蔓脚類(まんきゃくるい)
  と呼ばれる。蔓脚にはフサフサの毛が付いていて、殻の隙間から
  オイデオイデするように出し入れし、プランクトンを集めて食べる。
  開くときはパッーと扇のように広げ、再びからの中にシュッと
  ひっこめる。

 ・フジツボの大きさは数ミリ~手のひらからはみ出るサイズまで

 ・フジツボは、有柄目(ゆうへいもく)と無柄目(むへいもく)に分かれる。
  ※有柄目:カメノテ(岩場に住む)やエボシガイ(流木につく)など、
        柄のような長い部分があるものが古いタイプで、
        だんだんと柄を失う方向に進化した。

 ・フジツボは、いったん付着面から取れると、くっつきなおすことはなく、
  やがて死んでしまう。むやみにはがさないこと


 ・フジツボの仲間は恐竜以前の古生代カンブリア中期(約5億3000
  万年前)の地層から発見されている。

 ・潮間帯(潮の満ちひきがある場所)に住むフジツボ、深い海に住む
  フジツボなどいろいろ。

 ・いろんな場所に付着するフジツボもいるが、付着する素材を限定
  しているフジツボも多い。
たとえば、鯨にしかつかない、クラゲに
  しかつかない、珊瑚の中にしか住まない、ウニのトゲにしかつか
  ない、ウミガメの首筋限定、イソギンチャクを背負ったヤドカリの
  殻限定もいる。

 ・フジツボの8割近くが雌雄同体。また、自由に歩き回れず、遠く
  にいる他の個体と交尾しないとならないため、自分の体長の
  約8倍にまで伸びる生殖器を持っている。

 ・卵は親の殻の中で孵化し、しばらくはそこで育つ。これはエビ
  やカニの仲間に共通のノープリウス幼生


 ・その後、親の殻からとびだし、しばらく海の中を泳ぎ回る。
  ノープリウス幼生は明るい方を目指して活発に動き、プランクトン
  をたくさん食べて体脂肪率を上げることに努める。

 ・ノープリウス幼生はキプリス幼生に変身する。
  フジツボは環境が悪くても引っ越せない。そのため、付着場所を
  念入りにさがす。食べる間も惜しんで専念できるよう、この幼生
  には口がない。ノープリウス時代に蓄えた体内の油細胞をエネ
  ルギーとして使い、1秒間に体長の2倍進める。

 ・キプリスは付着する前にダンスを踊る。そして、水流の方向と
  逆を向いて逆立ちする。ちょうど蔓脚のむく方向が水流と逆に
  なるようにし、プランクトンを捕りやすいように付着する。

 ・付着するとキプリスは脱皮し、蔓脚を備えた幼体となる。

 ・寿命は種によってまちまち。1年~50年。
 ・クチバシカジカという魚はフジツボにそっくり擬態している。

 ・バーナクル・プレニィ(直訳でフジツボ・ギンポ)は、フジツボ
  の死んだ殻の中に住む。ただのフジツボですよ、という顔をして、
  近づいた生き物を補食する。

 ・江戸時代、日本では本草学(ほんぞうがく)という学問が花開いた。
  もともと8世紀頃に中国から伝わった薬草学が日本流に変化した
  ものと考えられるが、日本ではそれが動物、きのこ、岩石、虫など
  に波及し、博物学色の強い図譜がたくさん作られた。
  そしてフジツボはやはり貝の仲間とされている。フジツボやウニは
  「おそらく貝の仲間」といった曖昧な雰囲気漂うページに掲載されて
  いる。

 ・1845年発行の「目八譜(もくはちふ)」は、1000種近くの貝類を
  扱った当時最大の貝類図譜。「目八」とは貝という字を上下に分け
  たもので、江戸時代の人のユーモア。フジツボは粘着類の巻に掲載。

 ・フジツボの漢字表記に富士壺があてられるようになったのは、
  鎌倉時代以降。源氏物語が書かれた1000年前は藤壺だった。
  中国語でフジツボは藤壺と書き、おそらくそこから来ている。
  クロフジツボの仲間は、殻の表面に藤製品のような風合いがある。
  もしくは、蔓脚と、ツル性の植物の藤をかけたのかも。

 ・アカフジツボには比較的高い割合で白い個体が見られる。
  目八譜では、普通のピンク色をしたのを藤壺、白いのを夕顔と
  呼んでいる。源氏物語の藤壺、夕顔にちなんだのかもしれない。

 ・江戸時代の図譜「梅園介譜(ばいえんかいふ)」には、源氏物語
  54帖それぞれのタイトルを貝にたとえたものが載っている。
  フジツボも混ざっている。
  江戸時代にフジツボは美しいものとして認知されているようだ。

 ・1850年代のイギリスでは、鉄道網が各地に敷かれ、人々が
  遠くへ出かけられるようになった。鉄道の路線はたいてい都心
  から国の端にむかって伸びていて、海に囲まれているイギリス
  では必然的に行き先が海沿いの町となる。
  そんな人々を意識して、海の生物のフィールドガイド的な本が
  多数出版された。
  その多くは、キリスト教色の強いもので、海岸に生息する美しい
  イソギンチャクやゴカイなどの生き物は神様が創造したものと
  され、生物のしくみは二の次で、美しく芸術的な挿絵が多い。

 ・当時の海洋生物文学に貢献が大きいのは、フィリップ・ヘンリー・
  ゴッス。1853年にロンドンで水槽の展示を初めて行った。
  人工海水で海の生き物を屋内で飼うことを可能にした。
  ゴッスは、アクエリアムという言葉を初めて使った人としても
  知られる。

 ・ノーベル文学賞を受賞したチリの詩人パフロ・ネルーダは、
  ピコロコ(南米の巨大フジツボ)というタイトルの詩を残している。

 ・フジツボは世界の切手の絵柄になっている。

 ・日本ではカメノテやクロフジツボ、ミネフジツボが食用とされる。
  ミネフジツボは築地で殻付きキロ3000円で取引される高級
  食材。東北などでホヤなどの養殖のための浮きやロープに
  付いて何年もかかって育ったのものが市場に出る。

 ・チリでは市場に巨大フジツボピコロコが山積みされている。

 ・人類がフジツボを「汚す生物」と位置づけ、付着をいかに防ぐ
  か工夫してきた歴史は長い。フジツボの付着する生活様式が
  船や漁具などの人と関わる構造物につくと、呼び名は付着
  生物から汚損生物に変わる。

 ・集まって船底につくと、小さな凹凸は表面積を増やし、水中
  での抵抗を大幅に増す。フジツボだらけの船は、30%も
  速度が落ち、燃料費がかさむ。
  船などにフジツボが付着して速力が減退することを俗に、
  「カキがつく」という。

 ・1905年(明治38年)の日本海海戦前後が時代背景と
  なっている司馬遼太郎「坂の上の雲」にも、当時の戦艦
  にとって船底のカキが悩みの種だったと紹介されている。
  日露戦争中に日本がロシアのバルティック艦隊に勝利
  を収めた勝因にフジツボが関わっている。
  バルティック艦隊がすでに太平洋を北上してきていると
  いう意見が強まる中、日本艦隊の司令官東郷平八郎は
  「フジツボで遅くなっているはず」と、だいぶ遅い速度で
  予想した。
  本来なら途中で汚す生物を取り除くのだが、当時は日英
  同盟が結ばれていたため、イギリスが統治する港へ寄っ
  て船底をきれいにできなかった。日本の船は船底をきれい
  にして最高速度がでるようメンテナンスし、時速にして
  約3.7キロの差があったそうだ。

 ・付着防止の塗料といえば、成分のトリブチルスズ化合物
  (TBT)が生物への毒性が強いことがわかり、日本は
  世界に先駆けて1990年代には使用を自粛した。  
  TBT入りの塗料の利用が国際的に禁止になったのは
  ようやく2008年になってから。
  環境に優しい防汚塗料の開発が世界的に進められて
  いるが、付着生物を弱らせる物質がしみ出す仕組みの
  ものが主流だ。
  ただ、最近の開発動向には、海藻やウミウシなどから
  取れる天然の防汚剤を使い、さらにフジツボが付着する
  仕組みを理解することによって付着防止に応用するという
  アプローチもでてきている。
  サメには付着生物が付きにくいことから、サメ肌をまねた
  素材もあるらしい。

 ・フジツボは環境汚染を調べる指標生物にきわめて適している。
  (世界中の海に分布し、大きさがちょうと良く、けっこう長生き、
   走って逃げたりしない)

 ・フジツボの繁栄の要因は、セメントと接着機構によるところが
  大きい。
  フジツボは、テフロン加工された表面にさえ、くっつく
  ことができる。

  フジツボ・セメントは水中に液状で出され、ほどなく固まる。
  私たち人間は、水の中でものをくっつけられない。
  このフジツボ・セメントを人工的に製造し、医療用や
  水中利用  の接着剤として利用しようと、世界の研究者
  たちが試行錯誤している。


 ・「日本付着生物学会」は、イガイ、ホヤ、ヒドラ、コケムシ、
  珊瑚などの研究者が会員。フジツボ研究発表の割合は高い。
  会員230名ほど。一般人も参加できる。

 ・カイメンフジツボはカイメンに埋没して生きている小さな
  フジツボ。
  プランクトンなどを蔓脚で集めて食べるので、カイメンの
  表面から脚を出し入れしなければならない。
  だが、カイメンが成長すると、脚を出すのに使っている穴が
  塞がれてしまう。生き埋めにされないように、カイメンフジ
  ツボの蔓脚の一部にはギザギザがついていて、カイメン
  の成長にあわせて少しずつ削って穴を確保する。

  なぜそんな苦労をしてまでカイメンの中に住むことにこだわる
  のか?

 ・フジツボが嫌われる理由に、船底、発電所の冷却水取り込み
  パイプ、プラスチック製浮きなど、海水に浸っているほとんどの
  人工物にくっつくことがあげられる。
  成体を取り除くことは容易ではないので、発電所などでは
  たいてい塩素などを流して幼生のうちに処理する。


 ・付着生物に魅了されている人々の趣味としてほぼ共通する
  のが、ビーチコーミング(海岸漂着物を眺めたり拾ったり)。

  風が強い日の翌日は珍しいものが打ち上がっているので、
  強風だとワクワクしてしまうのがビーチコーマーの特徴。

 ・漂着物で、葉っぱに付着したアカフジツボの写真を見たことがある。
  不安定な葉っぱに付いているものは、キプリスのときに良い付着
  場所がみつからず、体内のお弁当も底をついたとき、海面を漂う
  1枚の葉っぱをみつけたキプリス幼生がギリギリの選択をしたの
  だろう。小さな漂着物は大海原で漂っていた頃のドラマを伝えて
  くれる。


 ・波間を漂うフジツボの移動にヒトが絡むと、事態は複雑になる。
  エルミニアスというフジツボが英国で発見されたのは1945年。
  ダーウィンはオーストラリアの種として記載していた。
  こんなにも大型船の行き来が増え、ヒッチハイクしたフジツボが
  急速に分布域を変えることをダーウィンが知ったら驚くだろう。


 ・大型船は行き先で積み荷を降ろす。軽くなりすぎた船体は不安定
  になるため、大量の海水(バラスト水)を積んで帰る。それを
  帰った先で排出し、外国の海洋生物入りの海水を捨てることになる。
  近年、バラスト水は沖の水深が深い場所に限ると規制されたが、
  それでも移入種は続々とやってくる。

 ・フジツボのセメント腺を発見したのはダーウィンで、英国王立協会の
  ロイヤル・メダル賞を受賞した。
  ダーウィンは知人への手紙に「だが私のフジツボ研究は産業のため
  応用されることは永遠になさそうだ」と記している。
  この点ではダーウィンの予想は完全に外れた。

 ・「種の起源」の結びの言葉。
  始まりはとても単純なものから、終わりなき形の変化の産物は、
  かくも美しく、今この瞬間も進化は続いている


 
  



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COMMENT

No title
青森の方では、大きな種類のフジツボを食べるそうですね。
カメノテも仲間でしたか。静岡で食べましたよね。味噌汁に入っていて。
是非、ミレモ家でもお試しください!
http://murakamitakeyoshi.blog122.fc2.com/blog-entry-387.html
2009/11/17(火) 10:16:37 | URL | くらげ #2SSD3uPA [Edit
No title
そんな都市伝説しらなかった・・・(--)
むか~し、ホラーまんがでは見たことありますわ
あのふじつぼが1冊のほんになるなんて、こちらもビックリ
おくが深いのですね^^
2009/11/17(火) 10:23:57 | URL | だっちゅ #- [Edit
フジツボ
岩場にびっしり張り付いていることがあります。この研究を読んでからでは、また違う目で眺めることになりそうです。
2009/11/17(火) 17:03:24 | URL | そよ風君 #- [Edit
No title
う~む、今度からラテモさんのことを「フジツボ婦人」と呼ぼうかな?
膨大な知識をありがとう
2009/11/18(水) 00:53:58 | URL | ラーダ・ドゥーナ #- [Edit
No title
フジツボの都市伝説???
そんなの、知りませんでした!
フジツボが転んだところにくっついて、離れなくなってしまうのですか?

フランスには、フジツボがくっついていてもおかしくなさそうな、お風呂にずっと入ってないような不潔なおじさんがいますけど、ラテモさんのまとめを読んだら、そんなことを言ったら、フジツボに悪かったかなと思いました(笑)

余談ですが、うちの夫は、今年の夏、海岸の散歩中にすっ転んで、腕を切ったのですが、セメント色のヌメヌメした土?で切った表面に、さんごが含まれていたのか、だんだん傷口がえぐれてきて、最後は骨が見えるのか??腕がとけちゃうのか??などと怖がっていましたが、実際には、そのうち治りました。
…でも、傷口が普通の切り傷と全然違って、数日後にえぐれ始めた時は、結構びっくりしました。
2009/11/18(水) 16:54:53 | URL | サラ #- [Edit

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Author:ラテモ
なにげない日々にあるキラキラをすくいとりたい、という気持ちで書いていきます。

ラテモ:猫・生き物・本・
     ベリーダンスが好き。
ミレモ:夫。外出と車が好き。
     ここに載ってる写真はミレモ
     が撮ったものも多いです。
モモ:デレンコな長女ニャンコ(スコ)
    2006/1/28生まれ
ラテ:オキャンな次女ニャン(mix)
    2006/5/28生まれ(推定)



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